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主張

主張 2024年3月1日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

2024年2月16日

とうてい納得できない「2024年度報酬改定」

― その問題点と課題 ―
きょうされん常任理事会

厚生労働省(以下、厚労省)は報酬改定検討チームでの検討を踏まえ、2月6日、「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定における改定内容(以下、改定内容)」と、報酬単位の新旧対比を含む「概要」と「算定構造」を公表した。しかしその内容は、多くの問題を含んでおり、終わりの見えない「物価高騰」と、危険水域といえる「職員不足」問題を抱えている福祉現場に衝撃を与えた。
きょうされんは2023年に、多くの障害団体の協力を得て、報酬改定検討への問題提起を目的に、障害福祉事業所の「職員不足の実態調査」を行ない10月24日記者発表した。回答のあった1,047カ所の福祉事業所のうち、8割が2022年度に正規・非正規職員を募集したけれども、採用できた正規職員数の充足率は53.5%と半分にとどまっていた。それに対して官公庁・民間企業等の2023年4月新卒者の採用における充足率は81.3%だった。障害福祉事業所の「職員不足」の厳しい現状が浮き彫りになり、NHKをはじめ多くのマスコミも本調査を報道した。また「職員不足と物価高騰による負担増を解決する2024年度報酬改定を求める緊急要望」の団体署名にとりくみ、2,286カ所の署名を厚労省に提出した。署名の自由記載には、障害のある人と支援者の悲痛な叫びが多数綴られ、その全文も厚労省に提出した。
しかしながら、2月6日に公表された「改定内容」と「概要」は、そうした声に応えるどころか、障害福祉に「危機的な影響」を及ぼしかねない。「改定内容」の問題点と課題は、以下の諸点に集約される。

1.基本報酬の減額と「加算頼み」の傾向
基本報酬の減額では、生活介護がもっとも大きな影響を受ける。とくに通所型の生活介護では、利用者規模によるが基本報酬は年間数百万円の減収となる。「改定内容」では、職員の人員配置や重度者支援の加算などを細分化し、それで対応できるとしているが、多くの加算が要件や事務量を課せられ、小規模な事業所ほど受けられない現状にある。「職員を雇い研修を受ければ、加算の対象になる」と言われても、そもそも職員を募集しても応募自体がない。資格取得の研修の回数や定員に限りがあり、研修受講を数年待ちしている事業所は多くある。こうした現状を放置したままの基本報酬の減額は、事業所運営と支援体制に多大な影響を及ぼしてしまう。

2.露骨な成果主義の強化
成果主義がさらに強化されたのは、就労継続支援A型、B型である。就労継続支援B型は、「利用者6人対職員1人」という新たな支援体制基準の単位が設けられたが、従来の職員配置基準の単位では、平均工賃15,000円未満の基本報酬がすべて減額された。とくに、この平均工賃15,000円水準の多くを占めているのは、障害の重い人や精神障害のある人、高齢の人など、支援度のより高い人たちを受け入れている事業所である。にもかかわらず、その報酬を減らすことは、支援の水準を引き下げてしまうだけである。

3.介護保険に急接近した「時間払い」
生活介護と、児童発達支援、放課後等デイサービスは、「日額払い制度」から「時間払い制度」への改悪に向かい、限りなく介護保険制度に接近としたと言わざるを得ない。当面は、「個別支援計画で確定した時間数で請求できる」としているが、これが一時凌ぎの緩和策であることは誰の目にも明らかである。

4.根本問題の解決を
居宅支援は一桁増、重度訪問介護と短期入所は一桁から二桁の増、行動援護は短時間利用を引き上げたが、3時間30分以上の利用は減額となってしまった。こうした一部の増額があったとしても、根本問題は解決しない。昨今の終わりの見えない「物価高騰」と危険水域に達した「職員不足」は解決せず、むしろ障害福祉の現場が今後さらに危機的な状況に追い込まれることは確実である。
そもそも根本問題としては、国際的にきわめて低い障害福祉予算の水準にある。OECD調査が明らかにしているように、各国GDPに占める障害福祉予算の割合のOECD平均は2%であり、日本はわずか1%にとどまっている。この水準は20年間ほぼ同様であり、政府・厚労省は「15年間で3倍増」と主張しているが、そもそも予算規模が小さすぎるのである。

今回公表された「報酬改定」は、厚労省が3月6日を期限にパブリックコメントを募集している以上、最終確定ではない。きょうされんとしては、この期限まで、引き続き国会・厚労省に働きかけ、最終確定まで抗う決意である。

【問合せ先】
きょうされん事務局
電話;03-5385-2223
E-mail;zenkoku@kyosaren.or.jp
HP;https://www.kyosaren.or.jp/

主張 2017年8月9日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

A型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の大量解雇問題を受けて

2017年8月9日

きょうされん常任理事会

 岡山県倉敷市と香川県高松市で就労継続支援A型事業所を展開していた運営法人が、経営状況の悪化を理由にこれらの事業所を閉鎖しことで、270人を超える障害のある人が解雇された。
規模の大小はあるものの、こうした解雇が各地で起きている。
 かねてより事業を行なわず給付費だけを受け取るような、いわゆるブラックA型事業所の問題が取り上げられる中、厚生労働省は今年4月より、事業の新規指定や継続の要件を厳しくする等の措置を講じた。そして今回の事態に当たっては、倉敷市が運営法人に対し、閉鎖までに障害のある人の受入先を見つけるよう勧告し、ハローワーク等関係機関も受入先の確保に動いている。
 こうした対応は現時点では必要だが、加えて、厚生労働省としてこうしたA型事業所の閉鎖に伴う障害のある人の解雇の実態を把握すべきである。そして、今後同じような解雇をなくすためには運営法人の責任を問うだけではなく、制度上のより本質的な検討が必要だ。
 2003年に始まった支援費制度以降、規制改革の一環としてNPO法人も障害関連事業に参入できるようになったことで、多くの小規模作業所が法内事業へ移行できるようになった。これにより障害のある人の働く場や活動の場が広がったことから、ここまでは必要な規制改革だったといえる。
 しかし、2006年に施行された障害者自立支援法では更に規制を取り払い、株式会社等にも参入の門を開いた。これにより、営利本位の企業までもが障害関連事業を実施できるようにしたことが、今回の大量解雇の発端と見てよい。多様な主体が参入することで競争がおこりサービスの質が向上する等として進められた規制改革の結果、障害のある人から働く場を取り上げることになってしまったわけだ。従って、この行き過ぎた規制改革にメスを入れなければ、いくら指定基準等を厳しくしても、こうした事態は解消されない。
 以上のことから、行き過ぎた規制改革を正常化するための視点を3点提起したい。
 第一に、就労支援事業は障害のある人の働く場であると同時に、非営利性と公益性を原則とする社会福祉事業でもあることを踏まえるべきである。社会福祉事業は営利本位ではなく、公共の利益のために必要な事業である以上、営利を目的とする企業等のこの分野への参入の在り方は、上記の原則に照らして見直しが必要である。
 第二に、就労支援事業所への給付費の原資は税であることを踏まえるべきである。社会福祉事業は企業の経済活動に係る資金や利益とはまったく異なる性質の資金により実施されるのだから、それによって生じた利益を株主に配当することを禁じる等の措置を講じる必要がある。
 第三に、障害のある人の人権の観点から、この問題の解決にとりくむべきである。障害者権利条約の批准から3年半、障害者雇用促進法の差別禁止条項等の施行から1年余となるが、今回の解雇問題は明らかに障害ゆえの不利益といえる。これを機に、障害のない人との平等を基礎とした雇用を確保するための本格的な措置を講じるべきである。

主張 2014年1月9日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

障害福祉サービス報酬改定についての緊急要望書提出

2015年1月9日

厚生労働大臣  塩崎 恭久 様
財務大臣    麻生 太郎 様

きょうされん 理事長 西村 直

障害福祉サービス報酬改定についての緊急要望書

 1月7日付の朝日新聞朝刊は、1面記事で政府は障害福祉報酬を1%引下げる方向で調整に入ったと報じました。また、同日付の日経新聞朝刊4面では、介護報酬の引下げ幅が2%台後半になると報じました。一方で、両報酬とも支援職員の給料が月額1万円程度増額となるよう処遇改善のための加算は引き上げられると報じています。
 報道が事実であるとすれば、障害分野にとって極めて重大な問題であり看過することはできません。
 ついては、当会として緊急に以下の内容を要望致します。何とぞご高配のほど、よろしくお願い申し上げます。

1)障害福祉報酬引き下げに反対する。今必要なのは同報酬の本体部分を抜本的に引き上げることである

 障害者自立支援法以降、報酬の日払い化と常勤換算方式の導入により、事業所の実態を見ると収入は不安定化し支援職員の非常勤化が進行している。また、就労継続支援事業A型における短時間利用に対する報酬の一律の減算は、精神障害のある人が利用者の多くを占める事業所等では、利用者が通院等必要な休暇をとることが事業所の報酬減額に直結するといった矛盾を引き起こしている。
 引下げの理由の一つとして上げられるのが障害福祉事業所の収益率の高さだが、これは限られた報酬による収益の中で人件費を含む経費を節約したことの表れである。その結果、障害福祉分野の支援員の給与が全産業平均にも遠く及ばない水準であることは周知の事実である。こうした中でいくら支援職員の処遇改善のための加算を引き上げても、本体報酬の引き下げで収入全体が下がれば事業所の経営は危機に瀕することになる。またこの加算は直接処遇職員のみを対象としていることから、事務や調理等に携わる職員には恩恵が及ばないのも大きな問題である。
 2011年8月30日の「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」では報酬と人材確保に関して「事業者が安定して事業経営し、従事者が安心して業務に専念出来る事業の報酬水準とする」「常勤換算方式を廃止する」と提言している。今必要なのはこの提言を踏まえ、障害福祉報酬の本体部分を抜本的に引き上げ、支援員の給料を一般的な水準に引き上げることを可能にする等障害者の地域生活の一層の安定を図ることである。

2)障害福祉分野の支援者の労働条件に関する全般的な調査を政府として行うことを強く求める

 障害福祉分野の支援者の給料が全産業の平均的水準に遠く及ばない実態は広く知られるところとなった。そのため、新規採用のために職員を募集しても応募がなく、支援職員の確保はこの分野の切実な課題となっている。また、障害者自立支援法以降、この分野では報酬水準の低下と常勤換算方式の導入により職員の非常勤化が進み、常勤との労働条件格差も顕著になっている。また派遣労働者も増えており、全体として不安定雇用が広がっているのが実態である。
先の骨格提言では、報酬と人材確保の基本理念として「適正な事業の報酬と必要な人材を確保するべきである」としているが、現実はこの提言と大きく乖離している。それにもかかわらず、雇用形態や労働時間を含む全般的な労働実態については明らかになっていない。
 報酬を改定するに当たっては、こうした障害福祉分野の支援員の労働実態についての本格的な調査を政府の責任の下で実施し、他産業との比較、雇用形態間の比較等を行うことが強く求められている。

3)市町村事業である地域活動支援センターを個別給付事業とし、他の就労事業と同格の報酬とするべきである

 障害のある人の地域生活を支える社会資源として、働く場は大きな役割を果たしている。その中で地域活動支援センターは就労系の他の事業と同様、障害のある人にとって不可欠の場となっているにもかかわらず、市町村事業であるためにその報酬水準は個別給付の他の事業とは大きな格差がある。
 地域活動支援センターはかつての小規模作業所の多くが法定事業の移行先としてこれを選択したが、法定事業となった今も小規模作業所時代同様、他の法定事業との格差に起因する困難な運営を強いられている。
 こうした矛盾を解消し、障害のある人がどの資源を選択しても同様の支援を受けることができるよう、地域活動支援センターを個別給付事業とし他の就労系の事業と同水準の報酬を確保するべきである。

主張 2013年10月28日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

きょうされん 社会福祉事業とその担い手のあり方に関する見解
~「社会福祉法人制度の在り方について」(報告書)〈平成26年7月4日〉などを受けて~

2014年10月28日 きょうされん理事会

1.はじめに
〇 第二次大戦後の日本には職がないことや障害などのために生活に困難を抱える人や戦災孤児などがあふれていた。これらの人々に対応する社会福祉事業は急務だったが、政府だけではとりくむことができないことから、本来の実施主体は行政であるとしつつこれを民間に委託するしくみとして、1951年に制定された社会福祉事業法(現社会福祉法)で社会福祉法人制度が定められた。
〇 現在、この社会福祉法人に対して政府や財界、マスコミをあげて異常な攻撃がかけられている。厚生労働省は昨年9月「社会福祉法人の在り方等に関する検討会」を発足させ、のべ12回の会議を経て今年7月4日に「社会福祉法人制度の在り方について」(以下、検討会報告書)をとりまとめた。現政権は産業競争力強化のための規制改革と社会保障・社会福祉の削減・解体をめざしており、検討会報告書はその端緒を開くものとなるだろう。
〇 きょうされんは特別チームを編成し、5月から9月までのべ5回の会議を開催し、この問題に対する検討を重ねた。ここに現段階での見解を明らかにすることとしたが、その基本視点は以下の3点である。
① 現政権がめざす市場原理の徹底は弱肉強食の社会につながることから立場の弱い人のくらしの好転にはつながらず、障害のある人の権利保障とはあい入れないこと。
② 社会福祉法人攻撃の内容と背景を読み解き、そのねらいや本質が社会福祉そのものの変質と公的責任の縮小・放棄にあることを明らかにすること。
③ 地域を舞台に事業と実践を展開してきたきょうされんの立場から今日の社会貢献論や規制緩和論の誤りを明らかにし、社会福祉事業とその担い手のあるべき姿を提示すること。
〇 障害分野では今年1月に国連障害者権利条約が批准され、日本の障害関連制度をこの水準に引き上げることが切実に求められている。本見解が多くの関係者に読まれ、障害者権利条約を実現する観点から社会福祉法人をめぐる議論に一石を投じるとともに、地域で真摯に活動を続ける多くの社会福祉法人、NPO法人および会員事業所の励みとなることを期待する。

2.社会福祉法人および社会福祉事業をめぐる動向
1)全般的な政策動向
〇 1990年代の社会福祉基礎構造改革により利用契約制度が導入され、利用者自身が支援内容を選択し契約を結ぶというしくみとなった。具体的には介護保険制度、障害者自立支援法という形でシステム化された。
そして、事業者間の競争が支援の質を向上させるとの宣伝のもとで、公金の使途制限や最低基準の撤廃、常勤換算方式の採用などの規制緩和がすすめられ、営利企業など多様な経営主体の参入が促進された。これにより福祉の市場化と公的責任の後退は劇的に進行した。
〇 利用契約制度はまた、事業所に支払われる公金の性格を、公的責任にもとづく措置費から契約にもとづく報酬に変えた。これにより社会福祉法人だけではなく営利企業までもが支援を受けた人に代わって公金を代理受領することになった。憲法89条は公の支配に属さない民間団体への公金の支出を禁じているが、上記の事態はこれに抵触する可能性がある。
〇 企業が世界一活躍しやすい国をめざす現政権は、成長戦略の一つとして大企業向け法人税減税や雇用の規制緩和などをすすめている。そして社会保障分野を成長産業にするために企業参入を促進し、市場化を強力にすすめようとしている。
〇 現政権はまた、社会保障制度への歳出の増加を日本の財政悪化の最大要因と決めつけ、効率化・適正化の名のもとに徹底的に縮小・解体することを狙っている。
2013年12月成立の社会保障プログラム法では「政府は自助・自立のための環境整備等に努める」とされ、「個人がその自助努力を喚起される仕組み」や「住民相互の助け合いの重要性」などが強調されている。政府はこうして自己責任を徹底し、社会福祉の公的責任が役割を発揮するのは自助・共助では成り立たない場合のみに限定した。

2)社会福祉法人をめぐる指摘について
〇 ここ数年、社会福祉法人への様ざまな指摘が行なわれている。政府の規制改革会議、社会保障制度改革国民会議、政府税制調査会などに加え、公正取引委員会からも独占禁止法違反と指摘された。また、一部のマスコミは社会福祉法人が抱える課題の一部分を取り上げ、それがすべての社会福祉法人の問題であるかのようなキャンペーンをしている。
  さらに「黒字をためこむ社会福祉法人、純資産は13兆円」(日経2011.7.7)、「社会福祉法人の1兆円の濡れ雑巾を絞れ!」(SYNODOS JOURNAL 2011.2.17)「トヨタをも圧倒する高い純資産比率」(DIAMOND online 2012.2.27)などマスコミ、財界から社会福祉法人の財務に対するバッシングが開始されている。
〇 このようにすべての社会福祉法人が内部留保をためこんでいるかのような報道は実態とかけ離れており、まっとうな論理をなさないネガティブキャンペーンといわざるをえない。こうした指摘の特徴は、福祉の市場化による公的責任の縮小を一層すすめる方向で展開されているという点にある。
〇 この間の主な指摘の内容は以下の通りである。
① 地域ニーズへの不十分な対応(先駆的・開拓的な地域貢献のとりくみが一部にとどまる)
② 財務状況の不透明さ(財務諸表の国民一般への公表が不十分)
③ 運営や意思決定のしくみなどガバナンスの欠如(一部の理事長による法人の私物化など)
④ いわゆる内部留保(使途の不透明さ)
⑤ 他の経営主体との公平性(イコールフッティング)

3)営利企業等の参入が社会福祉分野にもたらした影響
〇 今年6月にNHKで悪質な就労継続支援A型事業所の実態が報道された。同事業では雇用契約を結び最低賃金を支払うことが条件となっているが、この事業所では一日の労働時間を2時間程度に制限する、社会保険に加入しないなど利益を確保するための悪質なしくみができあがっており、本来の役割からかけ離れた実態が明らかとなった。
また就労移行支援事業にも営利企業が参入し、その一部は一日数時間の就職活動を行なうだけで2年間の利用期限とともに契約を終了し、新たな利用者を次々に獲得するという方法で利益を確保している。さらに放課後等デイサービスでも配置基準などが守られず、子どもの発達を保障する観点などがないまま、ただ預かっているだけの事業者が出てきている。他にも指定基準違反や架空請求などの不正による指定取り消しや、支援の専門性をもたない事業者による虐待などの権利侵害も各地で報告されている。
〇 このような状況を生み出す温床のひとつが、障害福祉分野をビジネスのターゲットにしているマーケティングやコンサルティング業界の一部である。こうした悪質な業者は、起業セミナーやフランチャイズについての講習などを通じて経営者を募るのみで支援の質や専門性などは問題にしないため、障害版貧困ビジネスと指摘されている。
〇 以上のような事業者の実態を見れば、事業者間の競争により支援の質が向上するなどという宣伝が誤りだったことは明らかである。営利企業の参入により支援が商品化されたことで、その質は大きく低下した。また、資金を効率的に回収し利益を獲得することが営利企業の目的であるため、事業を展開する地域や対象となる利用者にニーズがあっても、現在または将来の利益を生み出す可能性がなければ営利企業は撤退するのである。
〇 支援の商品化は営利、非営利を問わず進行したため、社会福祉法人をはじめとする非営利の事業者も否応なく市場の競争に巻き込まれた。その結果、良心的な経営者でさえも障害のある人のニーズよりも採算が取れるかを意識せざるをえないところに追い込まれている。

3.検討会報告書に対する意見
1)財務状況の不透明さやガバナンスの欠如に関して
〇 財務諸表を国民が分かりやすい形で開示することは必要であるが、これを形式的にごく一部のみの開示にとどめるなどの傾向は批判されるべきである。国民にわかりやすい形での、より適切な開示の重要性をあらためて確認するものである。
〇 民主的で透明性のある法人運営を推進するための見直しは必要だが、構造改革・規制緩和というスローガンのもとで、行政が本来果たすべき監督責任を果たしてこなかったことこそ、問いなおす必要がある。
〇 法人の規模拡大が資金の効果的活用や職員の適切な異動を可能にするとして、合併や事業譲渡の手前のとりくみとして複数法人による協働化をすすめることは、小規模法人を政策的に合併などに誘導することにつながることから、適切ではない。
〇 また、あらたなニーズへの柔軟で機能的な対応は、大規模な法人よりむしろ小規模法人のほうが迅速な意思決定のもとでとりくむことができる場面もあり、小規模法人の活動を困難にさせる方向での社会福祉法人の見直しは行なうべきではない。

<参考:検討会報告書の概要>
・ 財務諸表等の公表の義務化、地域における活動についての公表、都道府県や国単位での情報集約、経営診断のしくみの導入にとりくむべきである。
・ 法人組織の権限と責任の明確化、評議員会の設置など法人組織を機能強化するべきである。
・ 法人本部事務局の設置、法人単位の資金管理など法人本部機能を強化するべきである。
・ 理事等の損害賠償責任、監事要件の見直しなど理事等の権限と責任の明確化、要件の見直しにとりくむべきである。
・ 経営委員会、執行役員会の活用など理事長の権限を補佐するしくみを設けるべきである。
・ 合併・事業譲渡等手続きの透明化、理事会開催方法の柔軟化など規模拡大のための組織体制を整備するべきである。
・ 役職員の相互兼務、法人外への資金拠出の規制緩和、社団的連携など複数法人による事業の協働化を可能にするべきである。

2)いわゆる内部留保に関して
〇 この間の構造改革路線により、非営利であるべき社会福祉事業において「金もうけをしてもよい」と言わんばかりの規制緩和がすすめられてきた。前述の通り、利用契約制度の導入により障害福祉分野のようにもっぱら国民の税金により実施される事業においても、公費の使途制限の緩和や撤廃がすすめられた。これにより、営利事業者の大幅な参入が進む一方、社会福祉法人のなかにも営利的な変質ともいうべき経営手法をとる法人が生まれてきた。
〇 確かに、一部の社会福祉法人が営利的な経営に終始していることに対する批判は必要である。しかし、そのような状況を政策意図的につくりだしてきた構造改革路線こそ、第一義的に問題とされるべきである。
〇 このような中でもなお多くの社会福祉法人は公的な役割を果たすべく真摯に社会福祉事業を行なうとともに、地域のニーズに応えるため事業を維持発展させることに苦労している。また保育園や児童養護施設のように使途制限が担保されている分野も存在している。
〇 会計学的にみても内部留保についての批判は見当違いもはなはだしく、看過できない。特別養護老人ホームに多額の内部留保があるとする厚労省の調査報告(2013.5.13)においても、社会福祉法人会計基準では資本の概念がないため、内部留保の定義や算定ができず、外部調査としての限界があり、精緻さに欠いた調査であることを公式に認めている。
〇 社会福祉法人など非営利組織の会計は統一の処理基準や手法が確立されていないため企業会計と比較できないにもかかわらず、企業よりも内部留保が多いなどと単純に決めつける議論は正確さを欠いている。
〇 会計上の表現における企業会計との違いは、社会福祉事業がきわめて公的なものであることと密接な関係がある。社会福祉施設の整備にあたっては国や地方自治体から国庫等補助金が拠出され、これが社会福祉法人会計基準では公の支配に属する純資産(「特別積立金」)として処理されるが、企業会計においては企業の資産の源泉を長期にわたって預かり受ける負債として処理される。経営主体による会計処理の差が原因で貸借対照表には天地ほどの差が生ずる。また内部留保の算定にあたっても、そもそも資本の概念がない社会福祉法人の場合は蓄積利益、すなわち内部留保の根拠たる利益剰余金だけを容易には特定できない。
〇 憲法25条の実現のために税金で営まれる事業が恣意的な議論と論拠で誘導されるようなことはあってはならず、国民主権の原則にのっとった誠実で科学的な議論が求められる。

<参考:検討会報告書の概要>
・ 社会福祉法人は制度や補助金、税制優遇に守られ高い利益率を有するにもかかわらず、社会福祉事業等への積極的投資や地域還元することなく、内部留保として積み上げているとの批判がある。
・ 内部留保といっても、他の社会福祉事業に既に投資されている部分や将来の立て替え費用として合理的に説明可能な部分も多い。
・ 内部留保の議論は、社会福祉法人が事業の充実や地域の福祉サービスとして還元しなければ、その存在意義が問われるという点にある。

3)地域における公益的な活動について
〇 経済効率を最優先する政策のもと、雇用制度の改悪により派遣労働や非正規雇用が大幅に増加するなど膨大な生活困窮者が生まれていること、孤立や引きこもり、虐待など社会的な困難が蔓延していることなど、確かに新たな社会福祉のニーズは確実に増えている。これら既存の制度では対応できない新たなニーズに対して、NPO法人など民間団体による多様な支援が続いている。
〇 社会福祉法人がこうした地域のニ-ズに真摯に応えていくのは、その社会的使命からして当然だが、本来、こうした既存の制度では対応できないニーズへの対応を恒久化するには、公的な責任をともなった新たな社会福祉制度を確立するべきである。社会福祉法人の剰余金や寄付金などに依拠した別建ての公益的活動によって地域のニーズに対応することは公的責任のさらなる後退につながることから、適切ではない。
〇 一部では、社会福祉法人の資金拠出による基金を活用した社会福祉協議会などによる社会貢献事業がはじまっているが、これでは多くの法人は資金を出すだけに終わるだろう。真の社会貢献はこうした形式的なものではなく、主体的に地域のニーズにむきあう活動であることを銘記するべきである。
〇 9月30日、10月7日の第4回、第5回社会保障審議会福祉部会で、内部留保から事業の継続に必要な財産を差し引いたものを余裕財産とし、これを新たに定義する地域公益活動などに再投下するしくみをどう考えるかとの論点が示された。これは「内部留保の定義がない」などの批判に対応したものだが、新たなニーズに対して社会福祉制度の確立ではなく、社会福祉法人の剰余金などによって恒久的に対応することを前提としているという点でも不適切である。

<参考:検討会報告書の概要>
・ 社会福祉法人には制度や市場原理では満たされないニーズについても率先して対応していくとりくみが求められている。こうしたとりくみを実施することを前提として、補助金や税制優遇を受けているものであり、経営努力や優遇措置によって得た原資については社会や地域での福祉サービスとして還元することが求められている。
・ 社会福祉法人が、こうしたニーズに積極的に取り組んでいけるようにするためには、行政庁においても、活動内容などについて明確に示す、職員の専任要件および資金使途の規制などの弾力化など法人が活動をおこないやすい環境をつくっていく必要がある。また、活動資金については寄付などの独自財源の獲得を推進していくことが重要である。

4)他の経営主体との公平性(イコールフッテイング)について
〇 命と人権を守る社会福祉事業は非営利であることが大原則である。営利企業が利益の追求のために利用者支援の切り下げなどを行なうことはすでに見たとおりであり、営利企業が参入しやすい条件をつくることは、社会福祉事業の本来の役割をゆがめることにつながる。
〇 これまでも、社会福祉法人は制度の谷間にある地域のニーズに対応してきており、その実践が新たな制度を生み出してきた。したがって、社会福祉法人が地域ニーズにとりくんでいないかのように描くことは誤りであるとともに、こうした事実と異なる認識のもとでサービス提供体制の多様化と称して営利企業の参入を拡大することは二重の誤りである。
〇 一方で、NPO法人など長年、民間非営利組織として地域福祉を担ってきた団体が、社会福祉事業に参入できるようになったことは前進である。これら非営利の事業体が社会福祉事業にとりくむ場合には、優遇税制を適用するなど社会福祉法人と同等の財政上の措置を講じるべきである。

<参考:検討会報告書の概要>
・ 2013(平成25)年10月以降の規制改革会議では、①特別養護老人ホーム等についての参入規制の緩和、②社会福祉法人と株式会社やNPO法人との間の財政上の優遇措置の見直しについて議論がおこなわれた。
・ これを受け、日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)では、社会福祉法人の財務諸表の公表推進、法人規模拡大の推進など経営を高度化するためのしくみの構築を実施すべきとされた。
・ 2013(平成25)年8月にとりまとめられた社会保障制度改革国民会議報告書では、
① 医療法人・社会福祉法人の非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、ホールディングカンパニーのような法人間の合併や権利の移転などを速やかにおこなうための制度改正
② 社会福祉法人について非課税とされているにふさわしい国家や地域への貢献が必要との見解が示され、社会福祉法人の規模拡大やさらなる地域への貢献が求められている。
・ 検討会報告書では、高齢者施設全体が介護保険制度の導入により多様化し、株式会社などの参入が自由に認められる中で、特別養護老人ホームの役割が低所得で対応の難しい方にシフトしてきており、新たな役割が求められているとしている。そして、こうした地域ニーズへの対応をしっかり取り組んでいかなければ、社会福祉法人の存在意義そのものが認められなくなることを真摯に受け止める必要があるとしている。

4.社会福祉事業とその担い手のあり方についてのきょうされんの見解
1)きょうされんの基本的視点
〇 きょうされんは地域の障害のある人のニーズを受け止め、法制度にはない働く場である小規模作業所などをつくってきた。そして、この働く場などの安定した運営や支援する職員の身分保障などを求め、国や地方自治体の責任を追求して小規模作業所に対する補助金の制度をつくらせ、拡充させてきた。
〇 さらに、より安定した経営基盤を確立し地域のニーズを幅広く受け止めるために、多くの小規模作業所が社会福祉法人格を取得し、地域の信頼を得る事業体として発展してきた。一方、社会福祉法人格を取得するには土地の自己所有や1億円の資産などの厳しい要件を満たす必要があり、小規模作業所として厳しい運営を続けざるをえない作業所も多かった。
〇 きょうされんは一貫して小規模作業所への公的責任を主張してきた。その結果、2000年の社会福祉法改正の中で1億円の資産要件が1000万円に大幅に引き下げられ、多くの小規模作業所が社会福祉法人格を取得し小規模通所授産施設を開設できるようになった。
〇 きょうされんに加盟する多くの事業所が社会福祉法人格を取得してきたことの意義は次のようにまとめることができる。
① 地域の障害のある人とその家族、関係者のニーズを受け止め全国のすみずみに働く場やくらしの場などをつくることにより新たな社会福祉実践と事業を生み出し、障害のある人の地域生活を劇的に前進させてきたこと。
② こうした働く場やくらしの場などを拠点として地域のニーズを掘り起こし、さらに新たな事業へと発展させてきたこと。
③ 社会福祉事業を通じて障害のある人に質の高い支援を行なうために、支援者の雇用の安定と働きやすい職場づくりをすすめたこと。
④ 地域住民の信頼を得るために、地域のニーズに柔軟に対応できる開かれた事業体として発展させたこと。
〇 きょうされんは営利活動とは一線を画しつつ、非営利の社会福祉事業への公的責任を追及し、事業を地域で多様に展開してきた。そうした立場から、社会福祉事業の市場化をすすめ公的責任を後退させる方向での社会福祉法人のあり方の見直しには反対である。

2)社会福祉事業は公的責任のもとで実施されるべきである
〇 多様な経営主体の参入に伴う公金の使途制限や最低基準の撤廃などの要件緩和により、支援の質が低下したことは前述の通りである。
〇 公金によって実施される社会福祉事業については市場原理による質の向上は期待できないことから、公的責任のもとで公金の使途制限や最低基準の設定など必要な要件を設け、支援の質を担保するべきである。

3)命と人権を守る社会福祉事業の経営主体は非営利性および公共性を貫くべきである
〇 社会福祉事業は障害のある人などの社会的弱者が安心して暮らすことを支える事業であり、ひいては国民全体の生活の安心に寄与するものである。こうした特質を踏まえれば、その担い手である経営主体は非営利性および公共性を貫くことが求められている。
〇 社会福祉事業の市場化が支援の質を低下させている実態から、利潤の獲得を第一の目的とする営利企業は命と人権を守る社会福祉事業の経営主体としては不適切であるといわざるをえない。営利企業に対して不適切かつ大規模に公金が流出している現状は、政府が主張する効率化、適正化という言葉にすら整合していない。この不適切な実態をさして、公的福祉のしくみを見直すべきだとする主張は本末転倒である。
〇 ただし、地域のニーズに応える本来の社会福祉事業を具体化するための手段の一つとして営利企業という経営形態をとる場合には、一律にこれを否定するものではない。この場合、ニーズに応えるために営利企業という経営形態を活用しつつも、公金を扱うにふさわしい要件のもとで、経営の実態においては非営利性と公共性を貫くことが求められる。

4)「既存の制度活用」と「新たな制度の提言」は社会福祉事業の重要な役割の一つである
〇 内部留保や余裕財産を活用して社会貢献活動をするべきとの主張は、制度の谷間にあるニーズに対応するための新たな社会保障制度の確立への道を閉ざすことにつながる。このような主張は公的責任の後退を意味することから、不適切である。
〇 地域のニーズへの対応は基本的には、社会福祉事業の経営主体が既存の制度を活用して行なうが、その際、公的責任のもとで必要な支援水準などを確保する必要がある。
〇 一方、ニーズの中には制度の枠内では対応できないものもあり、こうした谷間のニーズへの対応や支援もきわめて重要である。したがって、社会福祉事業の経営主体は既存の制度の枠を超えてこれにとりくむとともに、こうしたニーズに対応するための施策の提言と制度化のための努力にも力をつくすべきである。
〇 なお、現行の制度がカバーしている分野でも、ニーズはあるが制度上は評価されない活動が多々あり、社会福祉法人はこれらにも対応している。こうしたとりくみも制度外の社会貢献として評価されるべきであるとともに、社会福祉法人は実践を通じて制度改善のための提言とその実現のための努力をするべきである。

5)複数の社会福祉法人が、支援を受ける人の視点にたった共同や連携を主体的に模索することなどを支援するしくみが必要である。
〇 社会福祉法人の大規模化を求める主張やホールディングカンパニー構想などは、経営の効率化や公費削減の観点から議論されており、福祉の市場化による公的責任の縮小とは親和的である。このような一律の大規模化は、地域のニーズに機動的かつ柔軟に対応するという社会福祉事業の本来の役割とは両立しない。
〇 一方、小規模な法人を含む複数の社会福祉法人が、支援を受ける人の視点から実践の質の向上や経営のあり方の見直しなどを目的として共同や連携を模索することは、地域のニーズに応える上でも重要である。また、多様なニーズに積極的に対応した結果、法人が大規模化することは十分に考えられることである。こうした主体的なとりくみを支援する制度的な枠組みこそが必要である。

5.おわりに
〇 このたびの一連の議論の中で、社会福祉法人にも課税を求める論調が出てきた時の衝撃は全国の関係者を震え上がらせた。そして、この動揺は社会福祉法の改正を先取りするかのように各地に広がり、社会福祉法人の拠出による基金づくりとこれを財源とする社会福祉協議会などによる事業が散見されるようになった。しかし、広がる格差と貧困への対応が、果たしてこのような表面的なものでよいのだろうか。
〇 この間の社会保障制度の後退は国などの公的責任を限りなく後退させる潮流であり、社会福祉法人をめぐる議論もこの中に位置づく。だとすれば、一時の表面的な対応で胸をなでおろしている間に公的責任の後退を見逃してしまうという愚行に陥るわけにはいかない。
〇 日本の、そして世界の社会保障と社会福祉の発展の歴史を関係者は重々知っている。わたしたちの役割は言うまでもなくこの歴史の到達を前進させることにある。そのような観点から、きょうされんは20年先を展望し「あたりまえに働き えらべるくらしを ~障害者権利条約を地域のすみずみに~ 」というスローガンを確立した。
〇 目の前の当事者の願いに真摯に向き合うと同時に、制度なき中でも支援の必要性を社会的に明らかにすることで新たな制度化につなげるという道のりを歩むことが、今こそ関係者に求められている。これはわたしたちが過去数十年にわたってとりくんできたように、社会への説明責任を果たす中で公的な責任を導き出し、そして歴史を創り出す営みである。
〇 わたしたちは、後世の人から「あの時、社会福祉法人が公的責任の後退を許した」と評価されるような道を歩んではならない。本見解が本来の社会福祉事業と公的責任のあり方に関する骨太の議論を喚起することを切に願うものである。

2013年10月28日

主張 2013年8月23日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

やっぱり、給付削減と負担増ありきの「改革」に

社会保障制度改革国民会議 最終報告書について

8月6日、政府の社会保障制度改革国民会議が最終報告書をまとめ安倍首相に提出した。
同会議は、昨年8月に成立した社会保障制度改革推進法に基づき、11月からのべ20回にわたり開催されてきたものである。
報告書の内容についてはマスコミでも取り上げられているが、近未来のわが国の社会保障制度の基調として、「負担増と給付削減」を軸に、結論としては従来の政権政策と何ら変わりない、「福祉切り捨て」の路線をさらに強調しているだけである。
そして何より肝心なことは、障害のある人と関係事業所にとって、どう影響してくるかであるが、報告書では少子化、医療、介護、年金、の4分野にわたり、その基調を示しているものの、障害のある人びとについては、第1部「社会保障制度改革の全体像」の3「社会保障制度改革の方向性」の(3)「女性、若者、高齢者、障害者などすべての人々が働き続けられる社会」と触れている以外に具体的な方策は見えてこない。何のことはない、障害のある人にとっては、働き続けるどころか、働く場さえ保障されていない現実のなかで、この報告書は空々しく聴こえてくる。
そうでなくとも、この間も年金や生活保護基準が引き下げられてきており、そしてさらに消費税がアップされるとなると、障害のある人たちは、もはや生存権ぎりぎりの窮地に立つことは明白である。
また、社会福祉法人については、医療法人と併せて「ホールディングカンパニー」を引き合いに出し、吸収・合併を促進させ、生き残りをかけて競争させるように制度を見直すとしている。つまり、公的財政支出を抑えるために、実質的に営利目的化した法人が得をするようなしくみを作るということである。となれば、医療法人や社会福祉法人と比べて、財政基盤や組織体制の弱いNPO法人は今後、制度の蚊帳の外に置かれる可能性も否定できない。さっそく、こうした動向を察知し、生き残りのための経営セミナーが各地で開催されている。
「国民会議」という名称の割には、ほんの少人数でこの国の社会保障のあり方を結論づけているが、構成員のほとんどが大学等の研究者で占められ、この報告書の冒頭で発した「国民へのメッセージ」では、福沢諭吉の「学者は国の奴雁なり」という言葉を引用し、この報告書がわざわざ国民意識との乖離を正当化しようとしている点を自ら吐露しているようなものといえよう。
なお、この報告書を受け、政府がさっそく今秋の臨時国会に諮るべくプログラム法案の骨子も明らかとなっている。それによると、来年4月以降に70歳を迎える人から、医療費の窓口負担を2割に引き上げるなど、やっぱり現政権は自立支援法の「生みの親」政権らしく、障害も病気も高齢化も、すべて国民個人の自己責任にしようとしているのだろうか。8月21日の閣議決定を経て、早くも国会に提出する構えのようである。
【傍若無人】(ぼうじゃくぶじん)とか【放辟邪侈】(ほうへきじゃし)、あるいは【奔放不羈】(ほんぽうふき)という四字熟語があるが、いずれも驕(おご)り高ぶり、やりたい放題に好き勝手なことを行うことを意味するが、先の参院選で「ねじれ」が解消されると、こんなにも露骨に一方的な政策が強行されようとは、実に悲しい思いがする。
消費税が増税される可能性も大きい今、暫くはただじっと我慢して耐えるだけでは障害のある人たちはもちろん、国民の身が持たないことは確実である。より幅広い団体・個人と中央・地方で手を結び、この流れを変えるもっと大きな世論の高まりをつくっていくことが、わが国でも求められているのではなかろうか。

2013年8月23日

主張 2013年8月1日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

障害支援区分(案)についての見解

きょうされん常任理事会

 障害者総合支援法(以下、総合支援法)の施行に伴って、2014年4月から障害程度区分認定調査(以下、障害程度区分)が、障害支援区分認定調査案(以下、障害支援区分案)に変更される。その厚労省案が7月1日に発表された。
 公表された障害支援区分案の内容だけでは、障害程度区分で生じた多くの問題・欠陥が解決されるのかは不明である。むしろ、わたしたち「きょうされん」は、介護保険制度の要介護認定を原型とした障害程度区分の導入そのものに異議を唱えてきた。しかも、自立支援法違憲訴訟で国が交わした「基本合意文書」を遵守し、障害者制度改革推進会議・総合福祉部会の「骨格提言」を実現する立場に立つならば、障害程度区分の障害支援区分への制度変更は受け入れられる政策選択とはいえない。
 こうした前提のうえで、きょうされんとしての見解を表明する。
1.基本的な立場と見解
 自立支援法違憲訴訟団と国(厚生労働省)は、2010年1月7日に、「速やかに応益負担(定率負担)制度を廃止し、遅くとも平成25年(2013年)8月までに、障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施」することと、「新たな福祉制度の構築に当たっては、現行の介護保険制度との統合を前提とはせず」に、検討・対応することを明記した「基本合意文書」を交わした。また、この「基本合意文書」にもとづいて全国14の地方裁判所で争われていた自立支援法訴訟は和解した。
 さらに「基本合意文書」を出発点に、国連・障害者権利条約の批准を目標とした障害者制度改革推進会議・総合福祉部会は、2011年8月に、自立支援法廃止後の新法案策定のための「骨格提言」を発表し、障害程度区分の廃止とともに、「協議・調整モデル」を提案した。
 しかし政府は、自立支援法を廃止せずに、名称変更と部分的な修正によって総合支援法を制定した。障害支援区分への変更も、その枠組みで行なわれたものである。
 「きょうされん」は、「基本合意文書」の遵守と、「骨格提言」の「協議・調整モデル」の実現を方針としているため、障害支援区分への変更は、「基本合意文書」とそれにもとづく訴訟和解から乖離する制度改変であるという批判的立場を表明せざるを得ない。
2.障害支援区分案にみる問題点
 前述した「きょうされん」の基本方針と批判的立場を前提としつつ、提案されている障害支援区分案について、現段階で把握できる問題点を指摘する。
(1)2009年版要介護認定に接近した障害支援区分案
 障害支援区分案の調査項目は、106項目の障害程度区分から、新たな項目の追加とともに統合・削除を経て80項目にされた。これだけをみると、調査項目が大きく変更されたようにみえるが、むしろ2009年版の要介護認定74項目に類似した傾向を帯びたといえる。
 たとえば2009年版要介護認定の「身体機能と起居動作」の項目群には、20の調査項目がある。それに対して障害支援区分では、「麻痺と拘縮」は医師の意見書から反映させることになったが調査項目は同様のままとすると、それに「起居動作」と「視聴覚」の調査項目群を含めると20項目となる。また要介護認定の「生活機能」の12項目に対して、障害支援区分の「生活機能Ⅰ、Ⅱ」は計11項目である。要介護認定の「精神・行動障害」の15項目と、障害支援区分の「行動上の障害(A群)」は、一部異なるが8割同一項目である。
 要介護認定は、2000年の介護保険制度創設時に85項目だったものが、2003年に79項目、2006年に82項目、2009年に74項目に変更されてきた。自立支援法の障害程度区分は2003年版の要介護認定の79項目をもとに策定された。
 つまり、障害支援区分の調査項目は、2003年版の要介護認定79項目をもとにした106項目の障害程度区分を見直したというよりも、2009年版の要介護認定の74項目をもとに策定されたと推測される。
(2)判定・審査のプロセスへの危惧
 障害支援区分は、「心身の状態を総合的に示す」と定めた障害程度区分から、「障害の多様な特性その他心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合を総合的に示す」ことを定義づけたことに、変更の特徴点があるといわれている。しかし、コンピュータ判定によって、障害に伴う日常・社会生活の困難への支援の必要度を判定することができるのだろうか。
 障害程度区分は、もっぱら身体と認知機能の低下度を測定する79項目の要介護認定をもとに策定し、要介護認定判定式のコンピュータソフトだったため、106項目のすべてをコンピュータ判定できなかった。
 これまでは要介護認定79項目をコンピュータで判定し、その結果にIADLの7項目を反映させ、第一次の程度区分を判定した(障害程度区分1以上の場合)。それを認定審査会にかけ、行動障害9項目、その他のC項目群11項目を反映させ、医師の意見書や特記事項を反映させた。つまり、障害に伴う生活・活動の困難さをできるだけ反映させるための制度運用上の保障を確保してきた。
 ところが障害支援区分案は、80項目すべてがコンピュータ判定に委ねられる。認定審査会に医師の意見書や特記事項を反映させるとしているが、認定審査会の変更率を引き下げることが目的の一つであるため、コンピュータ判定に重点がおかれることは必至である。「支援の度合を総合的に示す」などと、抽象的な表記にとどまっているのは、そのためであろう。
(3)「行動上の障害」項目の回答選択肢の問題点
 これまで回答選択肢が3つから4つだった「起居動作」を含む「身体介助」、「日常生活」、「行動上の障害」の回答選択肢の内容と数が統一される。具体的には、「起居動作」は「できる、見守り支援、部分支援、全面支援」の4つ、「日常生活」は「できる、部分支援、全面支援」の3つ、「行動障害」は「ない、希にある、月に1回、週に1回、ほぼ毎日」の5つになる。こうした回答選択肢の改善によって、「支援の度合」をきめ細かく判定されるようにみえるが、得点をみると、その評価は難しい。
 なぜならば、回答選択肢を増やしても得点に差がないのである。
 「起居動作」では、座位保持を除く6つの調査項目の統一した回答選択肢は4つだが、「見守り支援」と「部分支援」は同じ得点であるため、コンピュータ判定上は3つの選択肢となる。また「行動上の障害」のA群、C群も「異食行動」以外の23調査項目の統一した回答選択肢は5つだが、「希にある」と「月に1回」が同じ得点で、「週に1回」と「ほぼ毎日」も同じ得点であるため、コンピュータ判定では3つの回答選択肢となってしまう。これでは、聞きとり調査では、回答選択肢を増やし改善したようにみえても、コンピュータ判定の段階では回答選択肢の表記ではなく、得点が反映されてしまうため、その結果5択の選択肢は3択の得点として判定されてしまう。
 2009年版の要介護認定の「起居動作」、「日常生活」、「精神・行動障害」の回答選択肢が3つであることが要因にあるのであろうか。
(4)本人もしくは代理人主体と合意手続について
 障害程度区分は、本人主体のニーズアセスメントではなかった。調査員による聞き取りをもとにコンピュータ判定を行い、認定審査会を経て一人ひとりの障害程度区分は決定されてきた。しかも決定された障害程度区分によって、利用できる福祉の支援の種別と量が決まってしまう。決められた障害程度区分は、「障害福祉サービス受給者証」として、本人やその代理人の同意を得ることなく、一方的に行政から通知される。2015年には「サービス利用等計画」策定の完全義務化が実施されるが、これも、すでに利用できる福祉の支援の種別と量が確定した後の手続きであり、それはアセスメントとは程遠いしくみである。
 要介護認定をもとにした障害程度区分をもとに修正される障害支援区分では、真の意味での本人もしくは代理人主体の合意とアセスメントは不可能である。
(5)危惧される認定審査会の形骸化
 106項目のうち79項目がコンピュータ判定の対象とされ、それ以外の項目ならびに意見書や特記事項が認定審査会に反映されてきたからこそ、障害程度区分制度のもとで、必要な支援の種別と量を確保することができた。
 しかし、障害支援区分案は、80項目すべてをコンピュータで判定し、意見書と特記事項を認定審査会に反映させるとしているが、どこまで実効性を伴ったものであるか定かではない。介護保険制度の認定審査会の経緯を想定すると、まったく楽観視することはできない。
3.今後の運動課題
 「客観性・公平性の確保」の名のもとに厚労省は、頑なに障害程度区分を堅持し、「障害のある人の実態を反映していない」という批判をかわすために、障害支援区分に変更したに過ぎない。要介護認定は「入所施設における介護に要する時間数の測定」をもとに策定され、障害程度区分にそれが持ち込まれた。要介護認定の判定式は用いないとしているが、障害支援区分も「介助・支援に要する時間数の測定」を基本としていることに変わりはない。そこには、「障害のある人の本人らしい地域での暮らしの保障」や「障害のない人と同等の生活や就労の保障」という観点は存在しない。厚労省のいう「客観性・公平性」は、いったい誰に対する客観性・公平性なのだろうか。
 総合福祉法案が国会で審議された際、政府は「『骨格提言』は段階的、計画的に実施していく」と答弁を繰り返した。厚労省もこの政府答弁に拘束されることは当然のことである。そのため、総合支援法が自立支援法の延命法にとどまりながらも、附則第3条に「施行後3年の見直し」に9つもの検討課題が盛り込まれたのは、そのためである。
 繰り返しになるが、障害程度区分をもとに見直された障害支援区分案は、わたしたちの求めてきた「骨格提言」にもとづく「協議・調整モデル」とは、まったく異なる制度である。「きょうされん」としては、「基本合意文書」と「骨格提言」の完全実現をめざす運動を強力にすすめる決意である。

2013年7月31日

主張 2013年6月26日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

障害のある人々が選択できるこの国の未来
―第183回通常国会の閉会にあたって   2013年6月26日

きょうされん     
理事長  西村 直

 本日6月26日、第183回通常国会が閉幕した。
 本国会では、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」の成立をはじめ、障害者雇用促進法、生活保護法、道路交通法、精神保健福祉法、成年被後見人の選挙権回復等のための公職選挙法改定など、障害のある人々の人権等に係わるさまざまな重要法案が審議された。
 障害者差別解消法については、内閣府に設置された障がい者制度改革推進会議・差別禁止部会及び障害者政策委員会・差別禁止部会がまとめた意見書の内容とはほど遠く、法律名も差別の「禁止」ではなく「解消」とトーンダウンしたばかりか、3年後の施行(見直しはさらにその3年後)という、基本的にはきわめて不十分な法案であった。しかし、わたしたちは差別禁止に係わる法制をまずは確立することが先決であるという立場でこの法の成立を求めた。
 障害者雇用促進法改定案については、差別禁止条項を盛り込み、精神障害者を法定雇用率の算定の基礎に加えるという前進面はあったが、後者についてはその施行を5年後とし、さらにその5年後まで経過措置を設定するというもので、精神障害のある人にとっては実施までの期間があまりにも長すぎる。4月より法定雇用率(民間)が2.0%に引き上げられたものの、これではますます障害者雇用制度に関する先進諸国との格差がひろがるばかりである。
 生活保護法改定案については、わたしたちきょうされんは明確に反対の立場を表明してきた。その理由は、生活保護を必要とする人々を制度から締め出す改悪に他ならず、多くの障害のある人々がその対象となるからである。作業所等を利用する障害のある人の1割が生活保護を受給しており、憲法第25条に基づいても、とうてい容認できるものではない。結局、反対世論にも影響されながら国会会期末の混乱の中で廃案を実現することができた。しかし「改悪の火種」が消えたわけではなく、秋の臨時国会での再浮上は必至とされている。わたしたちは、引き続き強い覚悟をもって改悪を許さない運動を続けていくことを表明する。
 道路交通法については、てんかんや統合失調症など、特定の疾患名を挙げて免許の取得や更新時の虚偽申告に対する罰則を設けるなど、これらの当事者を他の人とは異なる扱いとする内容を含む改定が行われた。一連の交通事故の犠牲者とその家族の心情を十分に踏まえつつ、もう一方では「障害者は犯罪や事故を起こしやすい」といった偏見や差別を助長することがあってはならない。
 精神保健福祉法については、保護者制度を廃止するという歴史的な改正をしたにもかかわらず、その一方で、医療保護入院における家族同意を要件とすることで、改正の意義を損ねてしまった。「人権保障の観点から、第三者機関による監視及び個人救済を含む適切な運用がなされることを担保する規定を整備すること」とした骨格提言を想起すべきである。
 以上のように、本国会では、障害のある人に係わる多くの法案が可決・成立したが、総じて歓迎できる水準にないというのが率直な感想である。なお、納得できない問題のひとつに、第183回通常国会の会期中に(2013年1月28日から6月26日)、内閣府障害者政策委員会が一度も開催されていないことがあげられる。このことは、制度改革の鈍化を表すものであり、上記の法案審議にも少なからず影響したと言えよう。
 先にも述べた通り、本国会で公職選挙法が改定され、成年被後見人の選挙権が復権した。これは、障害のある当事者らの訴訟によってかちとった成果であり、来たる7月21日が投票日と見込まれている第23回参議院選挙から適用されることになる。これにより、被後見人となっている障害のある人たちが、久々に投票所に足を運ぶことができる。
 参政権の行使で、自らの意思を政治に反映させることは重要な国民主権のひとつである。あおり立てるような憲法改正の動きや、来春に予定している消費増税問題などは、障害分野にも深く関わってくる。
 来たる参議院選挙では、堂々と胸を張ってこの国の行方の選択に参加しようではないか。

以上

主張 2013年5月24日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(障害者差別解消法)についての見解

2013年5月24日
きょうされん理事会

 4月26日、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律案(以下、法案)が閣議決定をされ、本日、衆院での審議入りとなった。
 障害のある人と関係者は、障害のある人の差別を禁止する法律を長年待ち望んでおり、この間、障がい者制度改革推進会議・差別禁止部会、障害者政策委員会・差別禁止部会等で、そのあり方について熱心な議論が重ねられてきた。この議論の成果は「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見(以下、意見書)」としてまとめられている。
 この意見書の水準から見ると、今回の法案は甚だ不十分と言わざるを得ない。しかし、障害のある人の切実な願いを踏まえ、その暮らしを一歩でも前進させる観点から、党派を超えた徹底した議論を経て、今国会での成立を求めたい。
 その上で、国会審議を通して、確認答弁や付帯決議等を含めて、下記の諸点についてさらなる論議の深化と改善を求めたい。
①法律の名称を差別禁止法に
 障害を理由とする差別の実態についての国民や事業者等のいっそうの理解を広げ、法の意図を明確にするために、名称を「障害を理由とする差別禁止法」とするべきである。
②差別についての定義の明記を
 意見書を踏まえ、直接差別、間接差別、関連差別を不均等待遇の定義として明記すべきであり、これを禁止することを明示すべきである。
③合理的配慮の定義と拘束力を障害者権利条約と同等に
 「必要かつ合理的な配慮」は、障害者権利条約(以下、条約)の定めている合理的配慮と同じものであることと、その不提供が差別であることを明記すべきである。事業者による合理的配慮の提供は努力義務にとどめるのではなく、義務とすべきである。
④地方公共団体のガイドライン作成の義務化を
 差別や合理的配慮についてのガイドラインに当たる対応要領について、地方公共団体による作成は努力義務にとどめるのではなく、義務とすべきである。
⑤紛争解決・救済のしくみの拡充と機関の創設を
 紛争解決については、既存のしくみの活用が中心となっているが、法の施行状況や差別事例の分析等を通じて、実質的な救済のためのしくみの創設・拡充をすべきである。
⑥大臣からの助言、指導、勧告に従わない場合の措置を
 主務大臣が対応指針に関して、事業者に求めた報告をしない、または虚偽の報告をした場合の罰則は定められているが、加えて大臣からの助言、指導、勧告に従わない場合の措置を規定すべきである。
⑦法の施行と見直し時期を早めるべき
 法の施行を2016年(平成28年)と定め、必要な見直しは施行後3年を経過した場合とされているが、できるだけ施行を早めるとともに、施行後3年を待たずに必要な見直しを行うべきである。
⑧法が効力を発揮する各分野の明記を
 意見書に述べられている各分野に関する事項を法に反映させるべきである。
 以上の内容面での改善に加え、手続き面では意見書を受けての法案の検討、策定段階で障害者政策委員会への説明がまったくなかったことの問題を付言しておく。
 雇用分野の差別禁止等について新たな規定を設けた障害者雇用促進法の改正にあたっては、法案要綱が労働政策審議会障害者雇用分科会に諮られた。それに照らせば、本法案の策定段階でも、障害者政策委員会に説明と意見聴取があって然るべきであった。条約でも謳われている、政策策定過程における当事者参画の重要性を改めて強調しておきたい。
 また、いくつかの地方自治体では、独自の差別禁止条例が制定され、また現在、制定準備がすすめられている自治体もある。本法が施行されることによって、これら既存・新規の条例の改善が促進されることはあっても、条例の水準引き下げの根拠となってしまわないように、必要な措置を講じるべきである。
 なお、法案が成立すれば条約批准に近づくものと思われるが、批准はゴールではなく障害のある人が他の者と平等に生きることができる社会の実現に向けたスタートである。官民一体となってこの法を意見書の水準にまで充実させるとともに、条約の批准後速やかに、条約の定義・原則等との整合性をつける法改正に着手すべきである。

以上

主張 2013年2月21日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

震災2年目を目前にして、あらためて被災地支援のとりくみを

 まもなく3月11日がやってきます。人によっては「もう2年」かもしれません。「まだ2年」という人もきっといるでしょう。最新の警察発表によれば、死者・行方不明者を合わせると1万8578人、避難生活などで亡くなったいわゆる「震災関連死」は、復興庁のまとめで2300人余りで、合わせると2万880人に上ります。また、いまだに避難生活を送っている人は全国で31万6000人(2013年1月25日復興庁発表)となっています。報道こそ少なくなりましたが、福島第一原発は今でも放射能を出し続けており、収束の見通しは立っていません。決して過去の大震災ではなく、現在も進行中なのです。
 障害のある人の被害については、昨年秋にNHKが「総人口に比べて平均して2倍、場所によっては4倍の死亡率」という統計を発表しました。障害ゆえの人災と呼ばれているものです。しかし、なぜ障害ゆえに多くの人が命を落としたのか、その実態は未だに解明されていません。わたしたちは、JDFなど関係団体と連携して、政府に実態を検証することを求めています。
 わたしたちは、震災直後から日本障害者協議会を通じて、日本障害フォーラム(JDF)の支援活動に参加してきました。岩手、宮城、福島各県に設置されたJDF支援センターにのべ5000人を超える職員を全国各地から派遣して、被災地の事業所の再開支援や事業所の利用者支援を行なってきました。また、直後からの救援物資、職員派遣に関わる交通費、被災した事業所への助成事業などのための支援募金に、これまで1億円を超える協力が全国各地から寄せられました。
 しかしながら、社会の関心や協力が薄れつつあるいま、一層の支援が求められていることも事実です。福島県南相馬の事業所の多くは、ようやく震災前の水準まで工賃が保障できるようになりました。津波で建物を流された宮城県の会員事業所「きらら女川」の再建は、プレハブからの出発となりそうです。
 「きょうされんはひとつ」の気持ちを込めて、一層の支援活動をここに呼びかけます。以下の活動を通じて、日本のどこからであっても、被災地の障害のある人・家族・職員、障害者支援事業所を支援する1カ月にしましょう。

2013年2月21日

きょうされん理事長
東日本大震災災害対策本部長
西村 直

主張 2012年11月1日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

わたしたちは10・31を忘れまい

   第36次国会請願署名・募金運動全国キャンペーンのスタートにあたって

2012年10月31日
きょうされん理事長  西 村  直

 7年前の2005年10月31日、障害者自立支援法が障害のある人々の声を無視して強行的に成立した。
 わたしたちは決してあの日を忘れまい。
 それから一年後の2006年10月31日、「出直してよ!障害者自立支援法 10・31大フォーラム」に15000人が集い、それから毎年のように幅広い障害団体がこのフォーラムに結集している。
 2009年の大フォーラムでは、当時の厚生労働大臣が、この集会に参加した大勢の面前で自立支援法の「廃止」を約束した。
 わたしたちは、その言葉を決して忘れまい。
 自立支援法違憲訴訟団との基本合意を反故にし、内閣府のもと総合福祉部会がまとめた「骨格提言」を蔑ろにし、自らの公約のほとんどを放棄した政権は今、その支持基盤を失いつつある。
 しかし、歴史の歯車は後戻りができない。
 だから今、わたしたちは障害者権利条約という羅針盤に従い、障害のある人々が障害のない人々と平等に諸権利を享受できる社会づくりに向けて、多くの諸団体との結びつきと市民の支援の広がりを築くため、新たな一歩をこの日、10月31日から歩み始めようではないか。
 「自立支援法」でもその焼き直しでもない、「骨格提言」に基づく法制実現への歩みが今日から始まる。

主張 2012年9月1日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

2012年8月24日 

障害に対する差別と偏見にもとづく大阪地裁判決に対する抗議声明

きょうされん常任理事会

 7月31日の朝刊は、「発達障害、求刑超え判決」、「再犯恐れ、長く刑務所収容を」などの見出しが躍った。それらは、昨年7月に姉を刺殺したとして、殺人罪に問われた42歳の被告に対する、7月30日の大阪地裁一審判決についての報道である。同判決は、犯行動機の形成にアスペルガー症候群が影響しているとしながらも、同症候群の影響によって、量刑を考慮することは相当でないとして、検察官の求刑の16年を超える懲役20年という判決を言い渡した。求刑を上回る量刑はきわめてまれではあるが、裁判員制度が始まってから増えているともいわれている。
 判決の要旨では、被告が「いまだ十分な反省に至っていない」原因についてもアスペルガー症候群の影響を認めながら、「いかに精神障害の影響があるとはいえ、十分な反省のないまま被告人が社会復帰」すると、同様の犯行に及ぶことが心配されるとともに、社会で被告のような「精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されておらず、その見込みもない」ため再犯の恐れがあることを理由に、「許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深め」ることが、「社会秩序の維持にも資する」とされた。そして、殺人罪の有期懲役刑の上限である20年という重い量刑が下された。

 この判決には3つの問題点がある。
 第一に、量刑を決定する大きな要因として障害を挙げたことである。しかも再犯防止と社会秩序の保全を理由とした、求刑を超える量刑は、偏見と差別に満ちた判決としかいいようがなく、怒りを禁じえない。現在、政府は、国連の障害者権利条約の批准を目標に、欧米諸国ではすでに立法化されている「差別禁止法」の制定の検討をすすめている最中にある。また千葉県をはじめ、熊本県、さいたま市、八王子市などでは「差別禁止条例」が制定され、他の自治体においても条例制定の動きをみせている。今回の大阪地裁の判決は、こうした流れに逆行するものといわざるを得ない。
 第二には、裁判の経過ならびにその結審としての判決要旨においても、アスペルガー症候群についての正しい理解や検討を加えた経過がみられない点である。発達障害の特徴やそれに対する必要な人的・社会的な支援、合理的な配慮のあり方などの視点から、被告とその家族に対する客観的な審理が行われた形跡もみられない。障害に対する専門的な理解を欠いたまま、事件の背景や真相を明らかにすることはできないはずである。被告とその家族を不幸な結果に追い詰めた根本的な原因は明らかにされたのか。また30年にも及ぶ在宅状態が社会的に放置されてしまった原因は明らかにされたのか。こうした審理を抜きにして、今回の事件の真相に迫ることはできないはずである。
 第三には、社会に受け皿がないということと、社会秩序の保全という時代錯誤の結論の問題である。受け皿がないという理由から、最大上限の懲役20年が課せられるということは、障害の有無や社会環境によって量刑が左右されるということになる。この判決理由に対して、厚労省がまったくコメントや反論を発表しないことも情けない限りである。発達障害者支援法を制定し、障害者自立支援法でさえも発達障害を対象とした。また罪を犯した障害のある人の社会復帰のための地域生活定着支援センターがすべての都道府県に設置されているが、今回の判決はこうした社会資源をまったく考慮していない。

 事件はきわめて痛ましい悲劇であり、二度と繰り返してはならない。だからこそ裁判所は、慎重な審理と専門的な知見からの原因究明に力を注ぐべきであった。今回の大阪地裁の判決に対して多くの障害団体が抗議声明を公表している。また日本弁護士連合会は、裁判の結論が出ていない8月10日に、きわめて厳しい「会長談話」を発表している(判決から2週間の控訴期限までに控訴がなければ判決が裁判の結論となる)。8月11日には、被告の弁護団は控訴の申立をおこなった。今度こそ、人権の砦たる司法の名にふさわしい慎重かつ科学的な審理がおこなわれることを期待して、注視していきたい。

 発達障害者支援法では「発達障害者の福祉について理解を深め」、「発達障害者が社会経済活動に参加しようとする努力に対し、協力する」ことを国民の責務と定めた。また、昨年改正された障害者基本法でも「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会」の実現に寄与することが国民の責務とされている。
 この事件に、多くの障害のある当事者、家族、関係者がショックを受け、自分のことのように心を痛めている。しかし、今回の判決に疑問を投げかけている市民やマスメディアも少なくない。肩身の狭い思いに駆られることもあるだろうが、どうか胸を張って生活してもらいたい。きょうされんは引き続き、当事者を中心にしながら関係者がともに手をたずさえて、運動を推進していくことをここに表明する。

2012年8月24日

主張 2012年6月20日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

今般の障害者総合支援法の成立に抗議する
~骨格提言と基本合意の誠実な履行を強く求める~

2012年6月20日
きょうされん 理事長 西村 直

 6月20日、障害者総合支援法(以下、総合支援法)が参議院本会議で可決し成立した。この法律の成立過程と内容を踏まえた時、看過できない多くの問題点があることから、きょうされんは強く抗議し、以下の点について指摘するものである。
 まず、法案策定過程において、所管する厚生労働省(以下、厚労省)が「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言(以下、骨格提言)」と「障害者自立支援法違憲訴訟基本合意(以下、基本合意)」を蔑ろにした点である。骨格提言の軽視は障害者及び障害団体の総意を軽視することであり、誰のための法律かという基本認識において大きな誤りを犯している。既存の枠組みやルールにしがみつくばかりで、障害者権利条約に適合させる意思や、当事者が求める新たな仕組みを創造する勇気も力量も持ち合わせていないことを、厚労省が自ら露呈したものに他ならない。基本合意に至っては軽視を通り過ごし、無視したといってもよい。これは司法の下で原告団と交わした約束を反故にする重大な詐欺行為であり、こうした振舞いの影響は単に障害者と関係者に及ぶだけではなく、国民全体の行政や司法への信頼を失墜させることにつながることを深く認識するべきである。
 次に、国会での審議が余りに形式的であった点である。4月17日に審議入りしてから6月20日に成立するまで、審議時間は衆参合わせて約6時間という短さだった。これでは、国会での徹底審議を求める障害者及び関係者の声を十分に反映したとはお世辞にも言えず、国会が自立支援法に替わる新法制定を軽視したと受け止められても仕方がない。民主党と厚労省は自立支援法を実質的に廃止したと主張するが、それならば国会の場でそれにふさわしい審議時間を確保すべきだった。これほどの審議時間の短さは、総合支援法が自立支援法のマイナーチェンジに過ぎなかったことの現れである。3月13日の閣議決定後に民自公3党により密室で協議が行われ、その場で修正内容について合意に至ったと聞き及んでいるが、このような手法では障害当事者や関係者の理解を得ることは到底出来ない。国会という開かれた場で必要な時間を十分にかけ、質の高い議論を通じて法案の問題点を明らかにした上で、立法府としての修正意見をとりまとめるべきであった。
 さらに内容面では、理念規定に「可能な限り」という必要な施策を行わない場合の言い訳につながる文言を入れたことや、利用者負担について応益負担の枠組みを残し収入認定を本人のみとしなかったこと等、骨格提言とは相容れない部分が多く残された点である。加えて、付則第3条において法施行後3年を目途に検討を加え所要の措置を講ずるとされた諸点について、この検討を骨格提言の段階的実施という観点から行うとともに、そのための検討体制を「障害者等及びその家族その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずる」との規定を踏まえ早急に明らかにすることを、とりわけ政府・民主党及び厚労省に強く求める。
 骨格提言と基本合意をわが国の障害保健福祉施策に反映させることと、現在検討されている障害者差別禁止法(仮称)の制定は、障害者権利条約を実質的に批准するための不可欠な要素である。
最後に、きょうされんは以上のことを踏まえ、今後も全国の障害者及び関係者と連携し、障害のある人たちの安心・安全な地域生活を実現するために、運動を推進していくことをここに表明する。

主張 2012年6月20日

障害者総合支援法が可決・成立 訴訟団が抗議声明

6月20日16時10分、参議院本会議は、「障害者自立支援法の題名を障害者総合支援法と改める」(小林参院厚労委員長)「新法」とすらも呼べない法案をボタン採決(賛成210、反対24)で可決し、総合支援法は成立しました。
訴訟団は、抗議声明を発表し、緊急記者会見を行いました。
以下 訴訟団抗議声明

総合支援法」成立に対する訴訟団抗議声明

2012年6月20日
障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団・
基本合意の完全実現をめざす会

1 「総合支援法」の成立
本日、第180回国会で障害者自立支援法の一部改正法である「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(総合支援法)が成立した。
本国会で成立するべきは障害者自立支援法を根こそぎ廃止し、障害者の基本的人権を支援する新しい法律であるべきである。
訴訟団との約束と願いを踏みにじったこの法律制定を断じて許すことは出来ない。
2 2008年障害者自立支援法の導入
2006年に施行された障害者自立支援法は
「障害福祉サービスはお金で買うものだ」という考え方(平成17年10月06日・衆議院厚生労働委員会中村秀一元厚生労働省社会援護局長・政府参考人答弁参照)により制定された法律である。
3 違憲訴訟の提起
私たち障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団は、障害福祉は憲法に基づく基本的人権の行使を支援するものだとして障害者自立支援法の廃絶と新たな法律の制定を求めて2008年、2009年、全国で71名の原告が勇気を奮って訴訟を提起した。
政府は2009年10月、障害者自立支援法の廃止を前提とした裁判の話し合い解決を呼びかけ、真剣な協議を経て、2010年1月7日、被告である国は次の基本合意文書を原告らとの間で調印した。
・国は違憲訴訟の目的と意義を理解したこと(前文)
・障害者自立支援法を平成25年8月までに廃止することの確約(第一)
・速やかに応益負担制度(定率負担制度)を廃止すること(第一)
・新たな障害者総合福祉制度は憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援することを基本とすること(第一)
・障害者自立支援法の総括と反省として、国は、憲法第13条、第14条、第25条等に基づく違憲訴訟団の思いに共感し、真摯に受け止めること(第二1)
・国は障害者自立支援法が障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し心から反省し、その反省を踏まえて今後の施策を立案し実施すること(第二2)
・新たな総合福祉法の制定にあたり訴訟団提出の要望書を考慮の上、障がい者制度改革推進本部の下での障害者参画の上で十分議論すること(第二3)
・自立支援医療の利用者負担について当面の重要な課題とすること(第四)
・新しい福祉制度の構築においては、次の障害者自立支援法の問題点を踏まえて対応すること
○ どんなに重い障害を持っていても障害者が安心して暮らせる支給量を保障し、個々の支援の必要性に即した決定がなされるようにすること
○ 収入認定は、配偶者を含む家族の収入を除外し、障害児者本人だけで認定すること。
○ 介護保険優先原則(障害者自立支援法第7条)を廃止
4 裁判の終結
  上記基本合意成立を受け、2010年4月21日までに全国14カ所の地方裁判所の法廷の裁判官の面前で、被告国が同基本合意を確認して誓約する裁判上の和解が成立し、同訴訟は司法上の解決をみた。
5 推進会議、総合福祉部会
  2010年1月に障がい者制度改革推進会議、同年4月に総合福祉部会が開始され、いずれの会議も基本合意文書を基本として議論が進められることが確認され、私たちは訴訟終結の判断は間違っていないと確認した。
6 障害者自立支援法廃止の閣議決定
  2010年6月29日政府は障害者自立支援法の廃止を閣議決定した。
7 2011年8月30日 骨格提言
  障害種別などを乗り越えた55人のあらゆる立場からなる委員の一致した提言として、総合福祉部会が障害者自立支援法を廃止した後の新たな法律の骨格を提言した。
  骨格提言は基本合意文書、および障害者権利条約に依拠して作成された。
  私たちはこの訴訟運動が推進してきた力と役割の正しさに確信を抱いた。
8 2012年 政府の約束反故
  ところが2012年2月8日第19回総合福祉部会で厚労省から発表された法案は障害者自立支援法をそのまま定着化させる法案と言ってよい内容であり、国の背信行為に訴訟団全員は憤りに打ち震えた。あらゆる機会をとらえて私たちは国に再考を促した。
  しかし、その後微修正を経たものの、本日成立した法律は
廃止するべき法律を存続させる一部改正法であり、
国が被告として履行するべき法令廃止の約束に違反し、
基本合意文書で約束された確認事項をことごとく踏み躙る内容であり、
司法決着を覆す国家の許されざる野蛮な違法行為
であると私たちは万感の怒りを持って抗議する。
9 法的責任追及
  訴訟団は本日の法律制定により国の違法行為はより明確化したと考える。
  訴訟団は国の背信的で違法な対応に対し法的責任を追及すべく検討中であり、法的意見の発表を予告するとともに、違法行為に加担した政治家の政治責任、
政府の法的責任を徹底的に追及することをここに宣言する。   

以上   

主張 2012年6月20日

参議院厚労委員会採択に怒り!

以下 障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会HPより抜粋
参議院厚労委員会は、6月19日(火)13時30分から総合支援法案の趣旨説明4分+質疑を行い、わずか3時間で採択しました(民・自・公賛成、みんな・共・社反対)。
これは21日の国会最終日にむけて、政権与党の成果(法案成立数)が極めて少ないため、三党が合意している法案の可決成立の動きが加速しているためです。基本合意を破るな、骨格提言に基づいた徹底審議を求める声があふれているにもかかわらず、なりふりかまわず成立をはかる動きです。
20日(水)参議院本会議は15:30となりました。
しかし、一方で、原発再稼働反対、消費税増税反対、TPPや「新システム」反対の世論は急速に大きく高まっています。極めて緊迫した国会情勢が続いています。私たちはあきらめません。決して負けません。あらゆる力と知恵とつながりをあわせて、国会へ!

主張 2012年4月20日

衆院厚生労働委員会 障害者総合支援法案を可決に抗議

 衆院厚生労働委員会で18日、障害者自立支援法の根幹を残す障害者総合支援法案が、民主、自民、公明の3党の賛成で可決された。
委員会審議はわずか3時間で採決である。民主、自民、公明の事前合意を良しとして国会審議は事実上なしである。
18日の委員会は、 障害者が傍聴席を埋め尽くし自立支援法廃止の公約を裏切り採決を強行したことに抗議した。
法案は、
①障害者自立支援法を廃止するとした違憲訴訟団と国の基本合意(2010年)をほごにし、②障害を自己責任として家族収入を含めて「応益負担」を課す現行法の根幹部分を温存し。③障がい者制度改革推進会議総合福祉部会がまとめた「骨格提言」を全く反映していない。④報酬支払い体系については検討事項にすらあげられていない。
法案の審議は今後、衆議院本会議、参議院委員会、参議院本会議の採決を経て最短では今月27日可決、成立する見込と報道されている。
きょうされんは、国会審議いりにあたり以下の声明をだしている。

障害者総合支援法案の国会審議入りにあたっての見解
                      2012年4月17日  
              きょうされん 理事長 西村 直
 3月13日に閣議決定された障害者総合支援法案(以下、総合支援法案)は、民主・自民・公明党による与野党間の調整・協議によって若干修正され、第180通常国会での審議入りが確定的になった。きょうされんは、閣議決定を受けて、第一に経過上の問題、第二に基本合意文書に照らした基本問題、第三に理念条項に明記されている「可能な限り」などを含む、法案の内容面についての問題を指摘した。与野党間の調整・協議では、それらの問題点は一切解決されていなかったため、ほぼ閣議決定段階での評価のままの審議入りとなる。そのため、改めて上記の3つの問題点から、国会審議にあたっての見解を述べる。
 第一は、時間をかけた徹底した審議が求められる点である。そもそも「自立支援法の廃止と新法制定」は、民主党政権が宣言したものであり、また自立支援法違憲訴訟の終決のために訴訟団へ国が協議を申し入れ、その結果、基本合意文書を交わし、司法の和解調書にも盛り込まれた。つまり政府は、基本合意文書を遵守しなければならない立場にある。また総合福祉部会の骨格提言は、政府の委嘱を受けてまとめた提言である。その立場と責任からも国会は、基本合意文書と骨格提言を尊重した審議をおこなわなければならない。
 第二には、開かれた国会とすべきである。訴訟をはじめ総合福祉部会での議論に至るまで、一貫して当事者参画で検討してきた経緯がある。その意味では、そうした当事者を参考人として招致し、国会審議への参画を保障しなければならない。また、多くの障害当事者が、総合福祉部会の議論を見守ってきたという点からも、地方の当事者の声を反映させた国会審議とすべきである。さらに、全国186もの地方自治体議会が、「骨格提言を尊重した新法の制定」を求める意見書を採択している(2012年4月16日現在)。地方紙の多くもその社説において、同様の主張を発表している。こうした国民の声を反映させるためにも、地方公聴会を開催すべきである。なお地方公聴会は、あくまでも開かれた国会審議の位置づけで行なうものであって、法案提案前に、各政党がおこなった団体ヒヤリングとは、まったく位置づけが異なることを述べておきたい。
 第三には、時間をかけ徹底した審議と開かれた審議を行なったうえで、改めて基本合意文書と骨格提言に即して、総合支援法案の内容の再考を求めたい。それは、きょうされんが3月13日の「障害者総合支援法に関する見解」で表明したように、①理念条項の「可能な限り」の削除、②利用者負担における「家計の負担」を前提とした応益負担の仕組みの再考、③「一定の難病」のみを障害者の範囲に加えることによる新たな格差・制度の谷間の問題、④附則に盛り込まれた、障害程度区分に代わる新たな支給決定方式のあり方、パーソナルアシスタンス制度や就労支援のあり方など、3年間の検討目標や検討体制の明確化、⑤報酬方式の見直しなどである。なお与野党協議で障害程度区分が障害支援区分への名称変更が提案されたが、それをもってもなんら根本問題の解決にはならない。
 国会は我が国の唯一の立法機関であり、その責任と信頼に足り得る徹底した審議を行なうべきである。 決して拙速に決着をつけるようなことがあってはならない。
 きょうされんは、基本合意と骨格提言が尊重された障害者権利条約の実質的な批准に値する法律制定のための国会審議となるよう、多くの障害のある人々や団体、市民とともに引き続き力を尽くしていくことを表明する。
2012年4月17日

主張 2012年3月13日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

2012年3月13日
きょうされん常任理事会

障害者総合支援法案に関する見解

 本日(3月13日)、「障害者総合支援法案」(以下、法案)が閣議決定され、現在開会中の第180通常国会への上程手続きがとられた。経過的にも内容的にも、到底納得できるものではないことをここに表明する。その問題点を以下のとおり指摘し、自立支援法訴訟基本合意文書と総合福祉部会の骨格提言に基づいた再考を強くもとめるものである。
 第一は、経過からみた問題点である。そもそもこの法案検討は、2010年1月7日の自立支援法訴訟基本合意文書での自立支援法の廃止とそれに代わる新法を当事者などの意見をふまえて作る、との確約が出発点にある。これは民主党のマニュフェスト、裁判所での和解調書、閣議決定、首相や厚生労働大臣の国会答弁などで繰り返し公の約束事となってきた。そのため政府審議体である総合福祉部会において当事者等が参画して新法の骨格提言がとりまとめられた。ところが2月8日に示された厚労省案は、骨格提言の水準とはほど遠く、内実は自立支援法の部分修正でしかなかった。その基本的な枠組みを変えることなく、修正程度で民主党はこれを了承し(民主党厚労部門会議にて、座長は基本合意書を調印した当時の厚労大臣の長妻昭氏)、本日の法案の閣議決定に至ったのである。新法づくりに費やしてきた多大な時間と労力を無にしただけではなく、全国の障害のある人や家族、関係者の期待を裏切るものであり、文字通りの背信行為と断じざるを得ない。
 第二は、自立支援法違憲訴訟に伴う基本合意書との関係にみる本質問題である。基本合意文書には、「障害者自立支援法を廃止し新たな総合的な福祉法制を実施する」と確約している。しかし、今般の法案は、自立支援法の115条項のうち108条項はほぼ手をつけていないことに象徴されるように、法律の形式面からみても廃止とはおおよそほど遠い。
 真の「廃止」とは、自立支援法の基調となっている障害を自己責任とする考え方や成果主義と市場原理に基づく仕組みによって、利用を抑制したり、障害のある人と事業者の利害を対立させるようなあり方をあらため、障害のある人を保護の対象から権利の主体へと切り替えることである。厚労省と民主党は、自立支援法の名称・目的・基本理念の文言上の変更をもって「実質的に廃止となっている」と説明する。しかし、目的条項に地域生活の権利が明記されていないどころか、基本理念に「可能な限り」という文言を盛り込むなど自立支援法からも後退している面がある。また、家族収入を含めて応益負担を課す仕組みは厳然と残されたままである。これをもって「廃止」と言うのは余りに誠実さを欠くものであり、詭弁以外の何物でもない。
 なお、法を全廃して新法を制定すれば自治体や事業者などの現場が混乱するとの見解が示されているが、これは明らかに間違っている。現場を混乱させてきたのは誤った考え方と不完全なまま運用を続けてきた自立支援法そのものであり、だからこそ施行後三度にわたって大修復を余儀なくされたのであり、骨格提言はこれに終止符を打つものである。明確な方向性と時間軸を備えている骨格提言こそが、混乱防止を裏打ちしているのだということを強調しておく。
 第三は、内容面での問題である。前述した理念条項の「可能な限り」は、自治体の不熱心さに対する免責条項に成り得る重大な欠陥である。利用者負担については、「家計の負担」を前提とした応益負担の仕組みが残されたままで、基本合意で当面の重要課題とされた自立支援医療制度の解決も見送られている。また、障害者の範囲は、「一定の難病」を加えるとしているが、これは難病の間に格差を持ち込むもので、引き続き全ての障害者を法の対象としていないという点で「制度の谷間」を残したままとなっている。障害程度区分に代わる支給決定のあり方について、またパーソナルアシスタンス制度や就労支援を含む福祉サービスのあり方については、三年間で検討するとしているが、目標の明示や検討体制が不明なままで、さらなる先送りや先細りが懸念される。報酬制度についても、事業運営の極度の困難性や非正規職員の急増を正視することなく、その温床である日額払い方式への批判的な見解がなされていない。以上の点だけでも骨格提言と新法との乖離は余りに大きい。
 きょうされんは、基本合意と骨格提言が尊重された障害者権利条約の批准に値する法律となるよう、国会上程後も引き続き多くの障害のある人びとや団体、市民の皆さんと手を携えて、あきらめることなく力を尽くしていくことを表明する。

主張 2012年3月13日

障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団の抗議声明を紹介します。

2012年3月13日
障害者自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団

抗 議 声 明

      「基本合意と和解条項に違反する国の暴挙に強く抗議する!」
政府は本日、障害者自立支援法一部改正法案を閣議決定し即日国会に上程された(* 午後2時時点で最終確認されていないが本日中の上程は確実視されている)。
障害者自立支援法違憲訴訟において、被告である国は、2010年1月7日、原告団・弁護団との間で「2013年8月までに障害者自立支援法を廃止し新たな総合福祉法制を実施する」旨確約する基本合意を締結し、同合意は同年4月21日までに全国14カ所の地方裁判所の訴訟上の和解において重ねて裁判所にて誓約され、司法上の解決をみた。
ところが、本日内閣から国会に上程された法案は廃止するべき法律を存続させる一部改正法案であり、国が被告として履行するべき法令廃止の約束に違反し司法決着を覆すという、国家としてあるまじき蛮行であることは明らかである。
被告国は法の名称を「障害者総合支援法」と変更することにより「法は廃止された」などと詭弁を弄するもので、そこには誠意のかけらも感じられない。
この間、私たちは1月25日緊急会見、2月8日第19回総合福祉部会、9日政務官面談、集団訴訟共同抗議声明、13日緊急フォーラム、14日民主党WTヒアリング、29日プレスリリース、3月5日全国14地方訴訟団一斉会見、8日民主党説明会等、あらゆる機会をとらえて意見を表明し、政府・与党の過ちを指摘し、強く再考を促してきた。
しかし、政府は全国71名の原告の悲痛な思いを一顧だにせずに虚言を繰り返して居直りを続けた末、本日の閣議決定・国会上程に至ったものであり、私たちは全員怒りにうち震えている。政府与党の背信と国約違反を原告団・弁護団は断じて許すことは出来ない。
一国の総理大臣の官邸における直接の約束、国務大臣の公印による基本合意、裁判所に対する誓約さえも、平然と踏みにじられるならば、私たち国民は総理大臣・大臣・政治家の言葉など二度と信じることは出来ない。
どれほど深刻な政治不信を引き起こしたか本件に関与した政治家に自覚があるのであろうか。
2011年8月30日まとまった骨格提言は55人のあらゆる立場からなる委員の一致した提言であり、政府はその骨格提言の内容を法案として上程するべきなのである。「全国の障害者団体の一致した願いを法案として提出した。反対するならば、反対してみなさい。」と政府・与党は筋を通すべきであった。野党は反対出来るはずもない。
政府が調印した基本合意と政府が署名している障害者権利条約を基礎として作成された骨格提言を政府自ら無視し軽んじた罪はあまりにも重い。
私たちはどのような困難に遭っても、今後も法令廃止条項の要求を続け、基本合意と骨格提言を実現する内容の法律の制定を求めてあらゆる人々と連帯しながら闘い続けることを誓い、政府与党の暴挙に強く抗議し声明とする。

以上
              

主張 2012年3月5日

国が約束をやぶるとは・・自立支援法違憲元訴訟団が全国で抗議

『自立支援法は憲法違反』の訴訟に対し、国は廃止を約束し和解をもちかけました。
和解が成立、新法づくりにむけて骨格となる提言がまとまりました。
しかし、国は廃止の約束を反故にし、現法の改正で済まそうとしています。
3月5日、全国の元訴訟団は、大阪を始め全国14提訴地で一斉に抗議の記者会見を行ないました。
以下 毎日新聞より

<障害者自立支援法>改めて廃止訴え 元原告、全国で会見

障害者自立支援法の廃止を求めた違憲訴訟の元原告・弁護団が5日、東京など全国14の提訴地で記者会見し、同法の廃止を改めて訴えた。政府は理念や名称を改めた改正法案を新法と見なして国会提出予定で、「微修正で済ませるのは子供だましで許されない」と政府方針を批判した。

 同法は自公政権下の06年に完全施行されたが、福祉サービス利用時に原則1割の自己負担を求める内容などに障害者団体らが反発、各地で一斉提訴した。民主党政権が廃止方針を示し、国と原告側が新法制定で基本合意し訴訟は終結。だが、政府の改正法案は現行法の枠組み踏襲にとどまっている。
原告の深沢直子さん(45)の母智子さん(74)は「首相官邸で鳩山由紀夫首相(当時)が新法を作ろうと目の前で言ってくれた。その約束をほごにするのか。弱い立場の者が力を合わせて基本合意に至ったのに、国が無視することに怒りに燃えている」と訴えた。【石川淳一】

主張 2012年2月29日

みんなの手でつくろう障害者総合福祉法を!全関西集会!

緊急アピールを紹介します。

      障害者総合福祉法に骨格提言を反映させることを求める緊急アピール

本日2月29日、全関西の各地から、障害種別の違いをこえて、多くの仲間たちが京都に結集しました。
今、日本の障害者福祉制度は、大きな岐路を迎えています。
障害者・関係者の粘り強い運動によって、2009年の政権交代のあと、政府は遅くとも障害者自立支援法を廃止し、総合福祉法(仮称)の制定を目指すと約束しました。
また、障害者自立支援法が憲法違反であるとする訴訟において、2010年1月に原告・弁護団と政府は、2013年8月までに自立支援法を廃止することを含んだ和解のための「基本合意文書」を締結しました。
一方、2006年に国連で採択された「障害者権利条約」では障害者が他の者と平等な選択の機会を得られること、そのために必要な支援を受けることは権利であるとされています。
「基本合意文書」と「障害者権利条約」を「2つの指針」として、障がい者制度改革推進会議総合福祉部会で、2011年8月30日総合福祉法の「骨格提言」がまとめられ、政府に示されました。
この提言は、55人にも上る幅広い障害者団体・関係者の総意として取りまとめられたもので、その意義は極めて大きいものがあります。
こうした努力を経てまとめ上げられた提言の実現が、現在危ぶまれています。
実際に、2月8日に厚生労働省より提出された「厚生労働省案」は、この骨格提言をほとんど反映しておらず、内容もきわめて乏しいものでした。
その後、2月21日に出された「厚生労働省案」(修正版)においては、いくつかのポイントが盛り込まれたものの、「骨格提言」とは依然大きな開きがあると言わざるをえません。
今後、新法に骨格提言の内容を完全に反映させるべく、政府や国会議員、そして社会全体に対して私たちは力強く声を上げていかねばなりません。
昨年3.11に発生した東日本大震災への復興・復旧に向けた取り組みは、当然最優先されることであり、私たちも、この間、全力で支援活動を続けてきました。しかし、国においては、こうした事態を口実に、「総合福祉法」の制定に消極的な態度を示す人々もいると聞いています。
この行動は、単に障害者のためだけのものではありません。「ある社会がその構成員のいくらかの人々を閉め出すような場合、それは弱くもろい社会」なのです。一人一人が大切にされる社会の実現のために、この骨格提言に基づく総合福祉法の制定が大きな一歩になると信じます。
本日集まった全関西の障害者の声、そして全国各地の障害を持つ仲間や家族・支援者の思いを実現するため、「私たち抜きに私たちのことを決めないで」という切実な思いをもって、共に、力強い行動を起こしていきましょう。
2012年2月29日

全関西集会参加者一同

主張 2012年2月20日

きょうされんが下記の意見を表明していますので紹介します。

2012年2月15日

障害のある原告たちとの約束を破った厚労省と民主党の責任は計り知れない

 2月7日、厚生労働省は「新法」の素案を発表した。
 その主な内容は、名称を見直す、難病等を法の対象とする、障害程度区分を5年以内に見直す、ケアホームとグループホームの一元化、などである。つまり、新法を作る約束が、そうではなく、単なるほんの一部を改定するだけのお粗末なものだから、誰がみても呆れるはずである。
 しかも、骨格提言がA4・121ページに及ぶ新法の基本方向をまとめたのに比べ、厚労省案はわずか4ページ。「まったくやる気がない」としか受け取れないものだ。そのわずか4ページには、「地域生活支援事業としてボランティア活動を支援する事業を追加する」などとあり、これはわざと、そんなことを書いて反応をみているようにしか思えない。
 厚労省案について重大なことは、そもそも、「廃止」ではなく、ただの「名称の見直し」でしかないことである。これは、なにをかくそう、障害者自立支援法違憲訴訟団と国(厚生労働省)とのあいだで交わした、障害者自立支援法の廃止という基本合意文書での約束を無視した、国家による詐欺行為としか言いようがない。
 このことは、ひとり自立支援法だけのことでない。薬害肝炎やハンセン病、HIV、ミナマタ訴訟など、関連する訴訟弁護団らにも波及してしまう恐れがある。訴訟上の和解で確認した基本合意を反故(ほご)にする先例を見過ごしてはならない旨の共同声明が2月9日に出されている。
 利用者負担についても、自立支援法の最大の問題が応益負担であり、骨格提言では原則無償化を示していたにもかかわらず、利用料については厚労省案ではまったく触れられていないのだから、肝心なことはなにひとつ変わらない。それなのに名前を変えたから「廃止と同じ」と言い張っても、説得力のかけらもないではないか。
 だから、翌2月8日に開催された第19回総合福祉部会では、多くの委員より強烈な批判が出されたのも当然である。
 その部会では、きょうされんの藤井克徳常務理事がJDFを代表する立場で「とても空しく感じた。無力感さえ覚えた。(総合福祉部会の)1年9カ月もの膨大な時間と労力に対して、厚生労働省の総決算がこんなものなのかと感じた。権利条約が遠ざかっていく」と意見を述べた。また、佐藤久夫部会長は「現行法のマイナーチェンジに過ぎない」と皮肉った。他の委員もそれぞれに厚労省案に対する批判を述べている。それぞれの発言ひとつひとつにとても重みがあり、いまの情勢を端的にあらわしているので、ぜひオンデマンド動画をご覧いただきたい。
 さて、今後の予定では、3月13日の閣議決定を経て法案として上程され、国会という表舞台での審議に移る。その前にわたしたちができることは三つある。
 一つは、民主党の各議員に対して、全国から厚労省案の見直しを迫ることである。公約違反は自立支援法の廃止問題だけでなないことは承知のことなので、良心に訴え、政権交代の原点に帰ってもらおう。
 二つには、地方自治体からの意見書提出を急ぐことである。すでに60近い地方議会が昨年末までに意見書を採択しているが、この2~3月議会で、さらに多くの自治体・地方議会から意見をあげていこう。
 三つ目は、いま進めている第35次国会請願署名運動を広げ、国民世論として骨格提言の実現を求めることである。厚労省案に対する怒りは今、急速に全国に広がっている。
  闘いはまだまだ終わってはいない。

主張 2012年1月25日

障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会が緊急声明

自立支援法を廃止することなく、同法の改正法案で済ませるというう噂に対し緊急声明をだしました。
緊急フォーラム(2月13日(月)13:00~15:30 於:参議院議員会館講堂)も開催されます。

以下声明文を記載します。

国は障害者自立支援法の「廃止」という約束を果たせ!

2012年1月25日

障害者自立支援法違憲訴訟 原告団

全国弁護団

障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会

[障害者自立支援法違憲訴訟の提起]
 2008年~2009年全国の障害者ら71名が原告となり、障害を障害者個人の責任とする障害者自立支援法(以下「自立支援法」)は基本的人権を侵害し、憲法に違反するとして、法律を制定した国を被告とした違憲訴訟を全国で起こしました。
[厚生労働大臣による障害者自立支援法廃止方針の表明]
 2009年9月19日 長妻昭厚生労働大臣が障害者自立支援法廃止を表明
[国は法廷でも話し合い解決の方針を表明]
 2009年9月24日、広島地方裁判所の法廷にて、国は「障害者自立支援法廃止の方針を前提として訴訟のあり方を検討するため猶予を下さい」と裁判所に申し入れ。
 全国の法廷で国は同様の方針を表明して期日はストップしました。
[国の訴訟団に対する話し合い解決の申し入れ]
 国は9月29日、話し合い解決を訴訟団に対して改めて正式に申し入れた。
 10月6日には厚生労働大臣政務官室において、山井和則政務官から、障害者自立支援法が障害者の尊厳を傷つけたことを認め、原告らに共感している旨話し合いの趣旨説明が訴訟団に対してなされました。
これを受けて訴訟団は真剣な内部協議を重ね、協議に応じることを表明しました(10月22日)。
[協議が重ねられた]
 民主党障害者PTの国会議員のみなさん(現WT座長中根議員含む)が司会進行する形で協議が重ねられ、基本合意調印に向けて協議が続きました。
[2010年1月7日 基本合意調印]
2010年1月7日、国(厚生労働省)(以下「国」)と訴訟団は基本合意文書を調印し、国は「障害者の尊厳を深く傷つけたことに対し心から反省の意を表明し、この反省を踏まえ今後の立案・実施に当たる」「2013年8月までに自立支援法を廃止」「新法は障害者の基本的人権の支援を基本とする」旨確約しました。
[2010年4月21日 全ての訴訟が集結 総理大臣の陳謝]
2010年4月21日までに全国14の地方裁判所において基本合意を確認する和解が成立しました。
これは「障害者自立支援法を廃止する」という国の約束を信じたからに他なりません。
「障害者自立支援法改正法での事実上の廃止というやりかたもあります」などということは一言も説明されていません。そのようなことが言われていれば和解をするわけがありません。私たちは騙されたのでしょうか!
[推進会議、総合福祉部会]
 そして総理大臣を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」のもとの「推進会議」及「総合福祉部会」(以下「部会」)において活発な議論が行なわれ、2011年8月30日の部会において、自立支援法廃止後の障害者総合福祉法に関する骨格提言がまとまり、その提言に基づく法案が2012年春の通常国会に政府から上程される予定です。
[不穏な噂]
 ところが、昨今、永田町・霞が関で「自立支援法を廃止することなく、同法の改正法案で済ませる」という噂が流れています。
[2011年12月13日 第三回 国と訴訟団の検証会議]
基本合意に基づき訴訟団と国の第3回検証会議が12月13日に催され、訴訟団は国にその点を問い正しました。
「自立支援法を廃止するとした2010年6月の閣議決定の方針に一切変わりはない」旨政府は答弁する一方、訴訟団が「法案に自立支援法の廃止条項は入っていますね。まさか自立支援法の改正法案ではないですよね。」と上記の噂の真偽を問いただすと、なんと「その点も含めて現在検討中」と答弁しました。訴訟団が「廃止については検討の余地などないはずだ!」と問い詰めても、曖昧な答弁に終始しました。
[政府・与党の動向は?]
 自立支援法が廃止されることを全国の障害者が期待しています。
万が一政府が約束を反故にして同法を存続させるならば、各地で国を被告とした違憲訴訟が頻出する事態が再現されかねません。どうか、政府は障害者との間の公文書における確約を守るという最低限の信義を守ってください。
 そして、2012年1月になり、民主党政策調査会厚生労働部門民主党障がい者ワーキングチームが会合を重ねています。動向が注視されます。
[『改正でも廃止と同じこと』など詭弁です]
障害者自立支援法は憲法第13条個人の尊厳、14条平等原則、25条生存権等の憲法に違反するという違憲訴訟に政府が共感したことにより基本合意が結ばれ、その基本合意に基づいて骨格提言があるものです。その悪法を延命させておいて「廃止」とは笑止千万です。廃止も出来ずして、骨格提言が活かされるはずはありません。廃止しないということは障害者制度改革の根本を否定することに他なりません。
[基本合意文書を破ることなどあってはならない、あり得ない事態であること]
○ 他の集団訴訟にも悪影響が考えられます。
 今日、国に対する様々な集団訴訟において、基本合意文書を調印して訴訟を終結して解決するやり方があります。
 今回、基本合意文書は平気で踏みにじれるものだということになったら、今後、このような解決は出来なくなります。
 現在基本合意に基づいて訴訟終結後の協議を続けている事案は少なくありません。あらゆる分野に悪影響を及ぼしかねない事態であり、何としてもこのようなことは阻止しなければなりません。 日本の制度のあり方の根幹に影響を及ぼす事態です。
○ 「廃止しないで障害者自立支援法を延命させる」結論に至った場合
 考えたくもありません。
 しかし、万一、そのような事態に至った場合、基本合意調印とその違反に関与した関係者の責任の追及を含め、重大な決意をせざるを得ません。

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